医薬品データ管理の舵取り (RIMSとeDMSによるISO IDMP)

by Andrea Bartolomei, Regulatory Digital Transformation Manager @PQE Group

以下の情報はPQE 本社(イタリア)で作成されています。このため、ここに紹介するRIMSとeDMSへの感覚が日本の製薬業界のそれとは若干違うかもしれません。しかしながら、これらのシステムの将来における重要性を簡潔に表しており、製薬企業等におけるDXの一つのツールとして参考にしていただければ幸いです。ー PQE Japan㈱

 

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製薬企業が今後数年間に直面するであろう大きな課題の一つは、新しいISO IDMPの要求事項に従って、正確で完全な情報を備えた企業データベースを更新し、維持することである。これは、様々な国際市場で自社製品の販売承認を取得するためか、あるいは既に承認された製品について様々な規制当局(主にEMA)の要求事項に準拠するために必要である。

EMAが設定した目標は、ISO(国際標準化機構)が開発した国際IDMP(Identification of Medicinal Products)規格の採用を含むSPOR(Substance, Product, Organization, Referential)プロジェクト [1]を通じて、医薬品データの品質と信頼性を向上させることである。他の規制当局もこの規格の採用を検討しており、スイス当局はEMAの要求事項の一部と整合させる可能性があるとして本プロジェクトを優先しており、米国と日本の当局はグローバルIDMPワーキンググループの一員であるため、近いうちにこの規格と整合させる可能性がある。このことは、様々な企業にとって、標準化された一貫性のある情報収集・管理を可能にする内部プロセスの見直しを早急に行う必要性を意味する。

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新たな要求事項との整合プロセスを開始することが急務であることは言うまでもないが、企業レベルにおいても、中・短期的なメリットは大きい。例えば、情報を迅速かつ正確に検索する必要が幾度となくあったはずである。ハーモナイズされ、容易にアクセスできるデータを持つことは、迅速で信頼性の高い報告システムの構築を可能にするとともに、データそのものの分析を促進する。このような高度な分析・報告ツールは、先進的なユーザーが正確で最新のデータに基づいて、情報に基づいた戦略的な意思決定を行うのに役立つ。

 

eDMSとRIMシステムの概要 

近年、これらの課題に対処する適切なツールを製薬企業等に提供するため、多くのプロバイダーがRegulatory Information Management Systems (RIMS)およびelectronic Document Management Systems (eDMS)に代表される様々なソリューションを開発している。これらは、企業が薬事対応活動、申請データ、関連文書を管理する方法に革命をもたらす2つの不可欠なツールである。これら2種類のシステムは、機能的にも目的も全く異なるものであるが、相互に関連しており、相乗的な働きにより、時間とコストの面で大きな影響を与える活動の最適化を可能にしている。詳しく見てみよう。

 

Regulatory Information Management Systems (RIMS)

RIMSは、医薬品などに関する規制情報を管理、追跡、保管するために設計されている。RIMSは、企業が日々進化する規制へのコンプライアンスを維持し、コンプライアンス違反のリスクを低減するのに役立つなど、いくつかの重要な利点を提供する。より良いトレーサビリティと薬事プロセスのモニタリングにより、申請や申請のために割り当てられたタスクの進捗状況、現在の承認情報を明確に把握することができ、様々なビジネスユニットの計画活動を最適化することができる。RIMSは、薬事情報の自動化と一元化を支援する。情報を収集し処理するための自動的な仕組みを持つことで、規制当局への申請の準備、提出、監視に必要なリソースを最適化することができる。ISO IDMP要件の出現により、この種のシステムは、特定の医薬品に関連するデータをISO IDMPに準拠した形式に変換、管理、提出することを支援する(欧州レベルではEMAで既に行われている)。この対応は、また、高度な報告・分析機能にもつながり、薬事関連の活動に関する詳細な報告書の作成、実績のモニタリング、改善点の特定を可能にする。

 

eDMS (electronic Document Management System) 

RIMSと構造も目的も異なるのがeDMS(electronic Document Management Systems)である。この種のシステムは、電子文書の作成、管理、承認、保存、検索に使用されるソフトウェア・プラットフォームであり、アクセシビリティ(可用性)と情報共有(見える化)を向上させる。eDMSの主な利点は、文書に簡単にアクセスでき、特定の文書の履歴を追跡できることである。eDMSを通じて、文書のバージョン履歴を再構築し、過去の更新履歴を取得し、文書自体に対して実行されたアクションを追跡することが可能となる。実際、これは文書の最新バージョンを追跡し、最新バージョンを現在のものとして識別するという問題を解決する。eDMSシステムにはワークフロー管理機能があり、文書のレビューと承認プロセスの自動化を可能にし、承認された最新バージョンを追跡し、キーワード、メタデータ、またはシステム内であらかじめ設定されカスタマイズ可能な検索エンジンを使用して文書を検索することを容易にする。RIMSをeDMSと統合することで、企業は多くのプロセスを自動化できる。例えば、eDMSで作成・管理されている文書を、RIMSで管理されている規制当局への申請書類と自動的にリンクさせることができる。申請パッケージの作成は、eCTD、NeeS、VNeeSなど、さまざまな電子フォーマットでシーケンス(パッケージ)を作成できるパブリッシングツールによって管理される。RIMSおよびeDMSの統合されたパブリッシングシステムを導入することで、薬事情報および社内文書管理の観点からさまざまなワークフローがよりスムーズかつ自動化されるという、いくつかの重要な利点がもたらされる。例えば、手作業によるデータ入力の必要性を大幅に減らし、誤入力のリスクを最小限に抑えることができる。これにより、RIMSで再利用される一貫性のある正確なデータが増え、より大きな業務効率の向上と時間の節約につながる。まとめると、パブリッシングシステムをRIMSおよびeDMSと統合することで、ビジネスプロセスの効率性、確実性、および規制遵守が向上し、コラボレーションが促進され、より効果的な情報管理がサポートされるなど、非常に多くのメリットが得られる。

 

結論 

プロセスをデジタル化するということは、デジタル・ツールやテクノロジーを使ってビジネス活動を自動化・最適化し、効率を向上させ、エラーやコストを削減し、リアルタイムのデータ・アクセスを容易にするということである。これは、より機敏で、透明性が高く、迅速な対応が可能な市場管理につながる。
このような観点から、新しいパブリッシングツール、RIMS、eDMSは、進化し続ける環境で事業を展開する製薬企業にとって不可欠なツールであり、規制プロセスのデジタル化、そしてそれ以上のデジタル化がますます重要なポイントとなる。実際、ISO IDMPのような共通言語に完璧に従った薬事情報の変換、維持、交換は、申請を成功に導くが、データ管理が正確かつ迅速に行われない場合、困難な障害となることもある。

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【用語解説】

RIMS:Regulatory Information Management Systems
eDMS:electronic Document Management Systems
ISO IDMP:医薬品識別のためのデータの項目及び構造を規定した5種類の ISO(国際標準化機構)規格の総称。商品名や一般名、承認情報などを扱えるためかなり複雑な構造となっている。欧州では積極的に導入されているが、日本ではまだ使われていない。
SPOR:EMAが運営する薬事情報管理システム。それぞれSubstance Management Services  (SMS), Product Management Services (PMS), Organisation Management Services (OMS),  Referentials Management Services (RMS)の4つのサービスから構成される。ちなみに医薬品の情報はSMSとPMSに、企業の情報はOMSに格納される。

 

【参考】

[1]     EMA SPOR:https://spor.ema.europa.eu/sporwi/
[2]     日本製薬工業協会, "Regulatory Information Management System (RIMS) 導入の手引き," 2 2018. : https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/lofurc000000bzw3-att/rims2.pdf

 

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