従来のCSVの課題
バリデーションは従来、膨大な文書作成と結びつけられてきました。つまり、FDAに提出する文書の山が大きければ大きいほど、結果が良くなると考えられていたのです。この文書への固執は、残念ながらライフサイエンス企業を誤った方向に導きました。企業は膨大な文書作成に注力し、必要なリソースを投入する一方で、製品品質の向上、データの完全性、そして最も重要な患者安全の確保から、必要な注意をそらしてしまったのです。実際、ライフサイエンス分野における品質は、作成できる書類の量で測れるものではなく、システムやプロセスが意図した通りに一貫して機能する能力によって評価されるべきです。ライフサイエンス企業が書類作成にリソースを投入しているにもかかわらず、FDAは検査で問題点を発見し続けました。これにより核心的な疑問が生じました。「システムは本当に意図した通りに機能することを確認するためにテストされたのか?」それとも、「単にそう見えるように文書が作成されただけなのか?」
コンピュータソフトウェアアシュアランス(CSA)とは何か。
2022年9月にFDAが公表したドラフトガイダンス「生産および品質システムソフトウェアのためのコンピュータソフトウェアアシュアランス(CSA)」は、連邦当局が直面する課題への対応として、批判的思考(クリティカルシンキング)を徹底し、時代に即したアプローチでバリデーションを効率化するため、ライフサイエンス企業に対し最も重要な事項のみにテスト労力を集中させるよう導くものとして理解するのが適切です。FDAのCSAガイダンスは、ライフサイエンス企業に全てをテストし大量の文書を作成するよう促すのではなく、患者の安全や製品品質といった重要な領域に注力するよう製造業者を導いています。これは「作業を減らす」という意味ではなく、「必要なこと」に焦点を当てるべきだというメッセージです。したがってCSAの本質は、潜在的なリスクに見合ったバリデーション労力を適用することで、ソフトウェアが意図された用途に適しているかどうかを判断するリスクベースのアプローチにあります。このアプローチはライフサイエンス企業にとってリソース効率に優れるだけでなく、生産・品質システムで使用されるソフトウェアがライフサイクル全体を通じて管理・監視され、継続的にバリデートされることを保証することで、製品品質と患者の安全性の向上にも寄与します。
CSV 対 CSA
CSVとCSAはいずれもシステムの信頼性と規制順守を確保するために設計されたアプローチですが、CSAは、文書化よりもテストを重視し、リスクベースの「保証」に焦点を当て、重複を避けるために過去の保証活動を活用するという点で、現代のデジタル時代におけるライフサイエンス業界のパラダイムシフトを表しています。
テスト優先のドキュメント作成
先に述べたように、CSVではドキュメント作成がテストよりも優先されることが多く、チームがシステム機能の検証よりもスクリプト作成などの作業に時間を費やす状況が生じていました。これに対しCSAは方針を転換し、テストを通じてシステム性能への信頼性を高めるという正反対のアプローチを取ります。
リスクベースの「保証」
これまで簡単に触れてきた通り、CSAでは患者安全と製品品質へのリスクレベルに基づき、適切な厳格さを適用することが求められます。画一的なアプローチではなく、リスクが高いほど、機能やコンポーネントに対してより包括的なテストと注意が払われます。これにより、リソースを最も必要とされる場所に論理的に配分することが可能になります。
既存の保証活動の活用
CSAの核心は効率性にあり、その効果が顕著に表れる領域の一つがここです。CSAでは、既に実施済みのテスト項目を再度検証する重複作業や資源・時間の浪費を避けるため、ベンダーによる事前テスト結果の活用を推奨しています。
CSAアプローチを検討すべき理由
ライフサイエンス業界は適応と革新がすべてです。CSAアプローチの導入を検討中、あるいはその進め方に確信が持てない場合、遅れを取るリスクを冒す前に、今こそ実行すべき時です。CSAの優れた点は、21 CFR Part 820.70(i)などの既存FDA規制への準拠だけでなく、現代的なデジタルツールを活用し、リソースを効率的に運用しながら、革新性・効率性・患者中心の思考を促進するというFDAの使命とも合致していることです。これはライフサイエンス業界にとって特に重要であり、ISPEのGAMP®ガイドラインなど、FDAと同様にリスクベースで患者中心のシステムバリデーション手法を提唱するグローバルベストプラクティスとの整合性も意味します。CSAは遠い未来の無視できる概念でも、やがて消えるトレンドでもありません。それは現在進行形であり、このアプローチを今まさに採用している企業は、患者の命を最優先とする革新対応型かつ品質主導の企業として自らを位置付け、成功への基盤を築いているのです。