記録を多く生成する部門には品質管理ラボがあるが、医薬品の品質と安全性を保証する基盤的な役割を果たしている。医薬品業界の主な課題の1つには、製造過程で残される記録の整合性を電子媒体および紙媒体の両方で保証することがあります。
2013年から2014年にかけて断続的に実施した査察が、事例発見の重要な出来事であった。これが2016年のFDAの最初のガイダンス「Data Integrity and Compliance with cGMP」の草案作成の基本的な契機となり、続くWHOの「Guidance on Good Data and Record Management Practices」や英国医薬品医療製品規制局(MHRA)の「MHRA GxP Data Integrity Definitions and Guidance for Industry」の草案作りに発展した。後者は、ラボ、流通、臨床およびファーマコビジランスの各分野を含めたGxPを含めて、よりグローバルな視点からのデータの整合性の見直しを提案した。更に、2017年の国際製薬技術協会(ISPE)による「Records and Data Integrity Guidance」のGAMPガイド発表、2018年のFDAガイダンス「Data Integrity and Compliance with Drug cGMP. Questions and Answers. Guidance for Industry」最終版も発表へと発展し、FDAのガイダンスが現在多くに参照されている。
ガイドラインが次々と改訂されるうちに、データの整合性を保証する活動における各国の医薬品業界での知識不足は常に問題となっており、以下のような規制における齟齬が生じている:
- 適切な文書記録化の実践不足
- データのライフサイクルでの記録保全とその利用可能状態の堅持の不徹底
- 試験データの改ざん
- 不適合の試験結果を破棄し、適合の結果が得られるまで試験を反復するというデータの改ざん
データの整合性に関連するガイドラインや規制を把握し、それらの問題に関して各保健省の要件を適切に解釈することは、すべての国にとって継続的な課題となっている。特に中南米の国々(メキシコ、コロンビア、チリ、エクアドル、ペルー、アルゼンチン、パラグアイなど)では、データガバナンスとデータの整合性に関する国際ガイドラインや出版物を段階的に導入することで、最高レベルの遵守を達成し、製品の品質、データの整合性、そして何よりも患者の安全を確保する必要があった。
データガバナンスに向けた文書保全システムの構築・進化において重要なポイントの1つは、データの整合性が何を意味するのかを理解することにある。
FDAでは、データの整合性とは、規制およびベストプラクティスの観点から紙媒体または電子媒体のデータの保全することと定義している。「しかし、データが適切に保護され安全な状態にあることをどのように保証できるのか?」という疑問が浮かぶ。その答えは、以下のALCOA+の各項目に準拠させるにある:
- 証跡性(Attributable):「誰が?いつ?何を?なぜ?」という問いで一意に識別できること。
- 読み取り可能(Legible):読みやすく明確に追跡可能であり、またその永続性が確保されていること。
- 同時性(Contemporary):記録作成と同時に記録として残すこと。
- 原本性(Original):初回作成とその後のデータ変更が追跡可能であること。
- 正確性(Accurate):正確で、有効で、真実で、信頼性があること。
ALCOA+の「+」は以下の原則を意味する:
- 完全性(Complete):データとメタデータを含んでいて必要な事象が再現できる状態であること。
- 一貫性(Consistent):データが実施された工程の正しい順序に存在すること。
- 耐久性(Durable):保管期間の間、データを完全な形で保持できること。
- 利用可能性(Accessible):いつでもデータが参照・利用可能であること。
つまり、データの整合性は、データガバナンスの概念の下、品質システム内で実践する必要があり、これにより、継続的な監視活動、システムのバリデーション、ALCOA+、データのライフサイクル、及びデータの整合性の基本原則に基づいた一連のプロセスの確立が可能となる。
製造工程中に採取したサンプルや、最終製品に使用する原料などの出荷前の分析と微生物学的管理を品質管理ラボで実施している。品質管理ラボでは、データの整合性原則に沿って記録し残すことが常に求められているからである。
では、品質管理ラボはデータの整合性はどのように遵守しているのか。紙媒体及び電子媒体の記録がALCOA+に準拠しているかどうか、どのように把握すればよいのだろうか。 重要なポイントを以下に挙げる。
- 品質管理ラボのデータは、ラボの技術者が記録紙に自分の署名、イニシャル、および日付をペンで記入する場合、或いは、電子的に、自分のIDとパスワードを入力し、コンピュータシステムがそのログ内に実行されたアクティビティを記録する場合であれば、ユーザーID、日付、および電子署名(該当する場合)をその記録に紐付けてあるので追跡できる。
- データは、紙媒体ならば、Good Documentation Practicesに沿って記録を作成することで、データの耐久性は確保され、例えば修正が行われた場合でも元のデータが消されることなく見えたままならば、削除・署名・日付がされた後でも、その修正の正当とみなされ、新たに記入した正しいデータも読むことが可能である。一方、電子媒体ならば、入力者と記録媒体の間の全てのやり取りが記録されることからその記録の読み取りは容易であり、データ削除は不可能。システム側で各変更を版変更によって管理しているか、データ変更記録を追跡できる完全な監査証跡が存在する。
- 紙媒体のデータは、ラボの技術者がそれに記入を始めた瞬間から記録が残ることで同時性を持ちます。一方、電子媒体では、コンピュータシステムがデータ履歴(メタデータ)をリアルタイムで保存する。
- 紙媒体のデータが原本であると認められるのは、データを記入した後、別の人物がその確認を行うか、またはデータ修正をGood Documentation Practicesに準拠して適切に実行した場合である。一方の電子媒体では、記録が原本であると認められるのは、バージョン管理や監査証跡が有効または完全であり、自動的または手動でバックアップのコピーが作成し検証できる場合となる。
- 出力記録の印刷や記録用紙への書込みがされ、そのデータ情報を裏付けるオリジナル文書が保護されることで、そのデータが正確であると認められる。
では「+」相当の要素はどうであろう。
- データは完全であると認められるのは、たとえば、システムの運用停止時にシステムに生成させたデータの電子的バックアップがある場合。データの一貫性が認められるのは、たとえば、草案作成、そのレビュー、承認の操作のように論理的時系列の順序に従っている場合。データに耐久性があり参照可能であると認められるのは、有効期間中およびアーカイブ後でも、簡単に参照でき、保存期間を遵守している場合。
紙媒体、電子媒体の何れの場合であっても、データ・記録管理においてALCOA+の要件を遵守することは、規制当局が求めるデータガバナンスとデータの整合性を確保する上で極めて重要である。データガバナンスに焦点を当てた品質システムの実施方法が明確ではないことが多く、要件の遵守は医薬品業界には大きなチャレンジとなっている。関連ガイドラインを理解し適用することは、医薬品業界および組織内外の専門家が絶えず取り組まなければならないことであり、取り組みに成功する企業は間違いなく先駆的な立場に立つことになると考えられる。