なぜライフサイエンスにおいて設備の適格性評価とバリデーションが不可欠なのか

by: Ana Franco Matamala - CQV Operations Manager @PQE Group

ライフサイエンス業界は、医薬品や動物用医薬品が高品質かつ規定された基準に準拠して製造されることを保証するために、設備や機器が重要な役割を担っています。 

製薬、バイオテクノロジー、臨床診断といった分野では、薬剤の製剤化、バイオプロセス、無菌包装、試験検査など、製造工程の各段階で設備が特別な役割を果たしています。自動化やAIを活用した機械学習の普及に伴い、ライフサイエンス分野の製造現場では、精度、効率、スケーラビリティを向上させるとともに、人為的ミスや運用コストを削減できる高度な自動化設備やシステムの導入が広がっています。

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しかし、こうした製造技術の進歩がある一方で、設備の適格性評価(Equipment Qualification)とバリデーション(Validation)は常に最優先事項であり続け、今後もその重要性は変わりません。**なぜなら、設備が意図したとおりに機能し、規制基準に準拠した高品質な結果を一貫して生産することが、業界にとって不可欠だからです。分野を問わず、ライフサイエンスにおける設備の不具合や一貫性の欠如は、製品品質の低下、生産の遅延、規制対応での大きな後退、さらには人や動物の健康被害といった重大な結果をもたらす可能性があります。

こうしたリスクを未然に防ぐために、製薬企業は、リスクを軽減するために、厳格な機器の適格性評価とバリデーションを優先し、現在使用しているすべての設備が最高の性能を発揮し、規制遵守チェックリストの要件をすべて満たしていることを確認すべきです。

 

設備の適格性評価(Qualification)とバリデーション(Validation)の違い 

 

一般的な理解とは異なり、「適格性評価(Qualification)」は「バリデーション(Validation)」の一部ではあるものの、設備のバリデーションと適格性評価はそれぞれ定義と範囲が異なる別個のプロセスです。

EU GMPによる定義は以下の通りです:

  • 適格性評価(Qualification):設備が正しく機能し、期待される結果を実際に生み出すことを証明する作業。

  • バリデーション(Validation):GMPの原則に従い、手順、プロセス、設備、原材料、活動、またはシステムが、実際に期待される結果をもたらすことを証明する作業。バリデーションという言葉は適格性評価の概念を取り入れるために拡大解釈されることもある。

つまり、ある設備が「バリデーション状態にある」と言うためには、まず適格性評価のプロセスを完了している必要があり、このため「バリデーション」という用語の中に「適格性評価」が含まれることが多いのです。

設備のバリデーションと適格性評価は、製薬製造や関連産業において重要な役割を果たしており、製造における信頼性の高い基盤を構築し、コンプライアンス違反のリスクを最小限に抑えることで、高品質の製品を一貫して製造することを通して患者の健康を守ることに貢献しています。

製造業者が製品やプロセスのライフサイクル全体にわたり、適格性評価とバリデーションを通じて重要な要素を管理することがGMPの要件です。これらの規制に基づき、GMPのAnnex 15およびISPE Baseline® Guide: Volume 5 によると、設備の適格性評価とは、設置された設備が意図された用途で適切に動作し、性能を発揮していることを保証するプロセスです。

適格性評価の活動は、ユーザー要求仕様(URS)の初期開発から設備の使用終了までのすべての段階を考慮すべきであり、通常は以下の4つの主要フェーズに分けられます:

•    設計時適格性評価(DQ:Design Qualification)
•    据付時適格性評価(IQ:Installation Qualification)
•    運転時適格性評価(OQ:Operational Qualification)
•    性能適格性評価(PQ:Performance Qualification)

これらの評価に加えて、FAT(Factory Acceptance Test:工場受入試験)およびSAT(Site Acceptance Test:現地受入試験)も重要であり、その詳細については後述します。

  1. 設計時適格性評価(DQ:Design Qualification)フェーズ
    適格性評価プロセスの第一段階であるこのフェーズでは、設備がすべての必要な仕様および規制基準を満たすように設計されているかどうかを確認します。設備のすべての特徴を点検し、その設計が意図された用途、安全要件、適用規制におけるコンプライアンスとの適合性に沿っていることを確認します。
  2. 据付時適格性評価(IQ:Installation Qualification)フェーズ
    このフェーズでは、すべての設備がメーカーの仕様に従って、完全で、適切に設置されているか、使用準備が整っていることを保証できることを検証します。
  3. 運転時適格性評価(OQ:Operational Qualification)フェーズ
    この段階では、設備が通常の運転条件下で意図どおりに動作しているかを確認します。あらかじめ定められた基準に基づいて、典型的な操作を通して、一連のテストを実施し、効率的かつ確実に機能しているかどうかを検証します。
  4. 性能適格性評価(PQ:Performance Qualification)フェーズ
    この最終フェーズでは、設備が一貫して良好に機能し、所定の生産パラメータ内で動作することを確認します。設備が安定した結果を出すことを保証することに加えて、製品品質を維持しているか、そして規制基準を満たしているかを通常の生産条件下で検証します。
    PQは通常、IQおよびOQの成功後に実施されるべきですが、場合によってはOQまたはプロセスバリデーションと同時に実施することが適切な場合もあります。
    一方で、設備バリデーションの話をする場合には、設備単体または生産プロセス内での結果の再現性を検証することになります。この場合、プロセスバリデーションの一部として設備バリデーションが含まれることになります。
    プロセスバリデーションとは、確立されたパラメータ内で操作されるプロセスが、医薬品をあらかじめ定められた仕様と品質特性に適合した医薬品を効果的かつ再現性よく製造できることを、文書化された証拠をもって示すことと定義されています(ICH Q7)。
    設備バリデーションでは、各適格性評価フェーズで検証され、バリデーションされた状態と許容できる製品品質を確保するために重要であると考えられるプロセスパラメータが、そのプロセスにより一貫して満足させることを確立する必要があります。
  5. FATおよびSAT ― 設備の適格性評価における重要な構成要素
    FAT(Factory Acceptance Test:工場受入試験)およびSAT(Site Acceptance Test:現地受入試験)は、設備の製造および試運転プロセスにおける2つの重要なフェーズであり、製薬、医療機器、臨床製造などの高度に規制された業界において極めて重要な役割を果たします。これらの試験は、適格性評価ライフサイクルの一部であり、Validation Master Plan(VMP:バリデーションマスタープラン)に最初から含める必要があり、設備が顧客の要求と規制要件を満たしていることを検証するために設計されます。
    FATは、設備が出荷前に製造業者の施設で顧客と規制の両方の要件を満たしているかどうかを確認するために実施されます。
    一方で、SATは、設置現場にて設備が正しく動作していることや輸送中に生じた可能性のある損傷がないかを確認するために実施されます。
    これらの適格性評価のステップが効果的で設備適格性評価における重要な柱である理由は、問題を早期に特定し、設置前にすべてを確認することで、時間とコストを大幅に節約できるという点にあります。このプロアクティブなアプローチは、IQやOQのような、後続の適格性確認のステップをサポートする文書化作業を提供し、冗長性を減らし、時間を節約してプロセス全体を効率化します。FATはSATよりも詳細かつ複雑な試験とされますが、どちらも設備のバリデーションと適格性評価において重要な役割を果たしています。両者は補完的な関係にあり、共に実施されることでより効果的になるため、どちらか一方を選択するべきではない。



設備の適格性評価およびバリデーションが必要となるタイミング

 

設備のバリデーションおよび適格性評価は、製造施設の運用ライフサイクル全体におけるさまざまな重要な段階で必要となります。これは、米国のFDA(食品医薬品局)やEUのEMA(欧州医薬品庁)といった規制当局により求められています。前述で強調したとおり、新たな設備を導入する際には、設備が業務要件を満たし、高品質な成果物を生み出せるかどうかを確認するため、包括的な適格性評価およびバリデーションを実施する必要があります。
したがって、設備の適格性評価およびバリデーションが最も一般的に行われるタイミングのひとつは、新しい製造設備や機器を購入したときだと言えるでしょう。

新しい設備は稼働し、時間経過とともに摩耗・劣化していくため、メーカーは既存設備の性能を回復・強化するためにアップグレードを決定することがあります。このようなアップグレードは新規購入とは異なりますが、ハードウェアやソフトウェアに関わらず、これらの変更が製品の品質や安全性を損なわないことを確認するため、重要な検査および再バリデーションの実施が規制により求められています。
同様に、設備のメンテナンスや修理についても、一見するとバリデーションが不要に思えるかもしれませんが、製品の安全性や品質に影響を及ぼす可能性があるため、患者が健康増進のために信頼する医薬品、医療機器、ヘルスケア製品を扱う現場では慎重に対応する必要があります。

さらに、製造プロセスや製品剤型の変更も、設備バリデーションが求められるもう一つのシナリオです。原材料や製造手順の変更は、既存設備との相互作用に影響を及ぼし、機能に異なる反応へのトリガーとなる可能性があり、結果として製品品質に影響を及ぼすリスクがあるのです。
ライフサイエンス業界におけるバリデーション活動の頻度や範囲は、EU GMPのAnnex 15およびISPE Baseline® Guideに基づいたリスクベースアプローチに従って決定されるべきです。

これにより、製品品質や患者の安全に直結する重要設備が、ライフサイクルを通じて一貫してバリデートされ、規制遵守が維持されることが保証されます。

 

なぜ設備の適格性評価とバリデーションが重要なのか 

"製造業者は、製品およびプロセスのライフサイクル全体にわたり、各業務における重要な側面を適格性評価およびバリデーションを通じて管理することがGMPの要件です。"

EU GMPのAnnex 15およびISPE Baseline® Guide: Volume 5は、設備の適格性評価およびバリデーションをライフサイエンス製造の卓越性を支える礎として位置づけています。これらは、高品質な医薬品、医療機器、バイオ医薬品、その他ヘルスケア製品の製造に必要なシステム、設備、プロセスが適切に機能していることを証明する文書化された根拠を提供します。

単なる規制遵守のための作業ではなく、設備の適格性評価とバリデーションは、将来のパフォーマンスの参考となるデータを生成することにより継続的なプロセス検証と継続的改善の枠組みを作り出し、今後の運用をより信頼性高く、効率的なものとします。

Annex 15では、初期の適格性評価と継続的プロセス検証との関連性が特に強調されており、適格性評価の確立は単なる一時的な活動ではなく、製造に対する製品およびプロセスのライフサイクルアプローチの出発点であることが示されています。

このライフサイクルの視点により、設備とプロセスは運用期間を通じて常にバリデートされた状態を維持し、プロセスの変動や設備劣化に伴うリスクから患者を保護することができます。適切な適格性評価とバリデーションが、全体的な規制遵守を超えた価値ある投資であるということは、製品が一貫して最高レベルの安全性と品質基準を満たしており、患者がいかなるリスクにさらされていないという安心感と満足感をもたらすのです。これは、ISPEガイドが説明しているように、適確性評価は製造に影響を及ぼす前に、潜在的な故障モードを特定し、緩和する有用なリスク管理ツールとなります。

設備が生産プロセス全体およびその耐用年数にわたって意図した通りに機能することを検証し、GMPを遵守することにより、製造業者は患者の安全性を保証し、製品品質を維持するという使命を果たすだけでなく、治療効果を損なったり、安全性の懸念を招き、リコールにつながる一貫性のない製造バッチや、さらには高額な罰則やブランドへの回復不能な損害をもたらす可能性のある公的機関や規制当局の監視といった、費用のかかる影響を回避することもできます。

 

設備のバリデーションガイドライン 

設備のバリデーションには「魔法の公式」は存在しませんが、正しいステップと推奨される実践方法を採用すれば、設備が必要な基準を満たし、医療製品の安全性と最高品質を保証することが可能です。バリデーションを始めるにあたり、PQEがおすすめする、最初に取り組むべき事項は、明確なスコープ、目的、アプローチの概要を明確にし、重要な設備パラメータ、受け入れ基準、手順を明記した確かなバリデーション計画のドラフト作成です。

どんな計画にも当てはまるように、「時間」は非常に重要であり、計画の実行に向けたタイムラインを設定することが、バリデーション目標達成への鍵となります。このタイムライン、リスクアセスメントやチームの責任分担に加え、プロセス全体の明確なフレームワークを持つことも重要です。これにより焦点を維持し、すべてのステップが規制要件および組織の標準に沿っていることを確実にします。

設備バリデーション戦略を成功させるもう一つの重要な要素は、正確かつ最新の文書作成です。すべてのバリデーション活動を文書化することです。テスト手順、結果、逸脱、是正措置など、規制遵守はもちろん、規制当局の査察対応や将来のバリデーション作業にも備えることができます。

また必須ではありませんが、品質保証、エンジニアリング、生産、薬事などの主要機能チーム間のクロスコラボレーションを行うことで、多様な専門知識を活用し、潜在的な問題を早期に発見し、よりスムーズな実行が期待できます。

さらに理想的なのは、PQE Groupのような信頼できるバリデーションおよび適格性評価の専門チームとパートナーになることです。規制の複雑さや運用上の課題に煩わされることなく、迅速かつ効率的にコンプライアンスを達成し、ビジネスに集中することができます。

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PQEグループは、貴社の設備が最高水準の規制要件を満たすことを保証するため、幅広い設備のバリデーションサービスを提供しています。プロジェクトのライフサイクル全体を通じて、設備、システム、ユーティリティの迅速な適格性評価および再評価を行い、製品発売の遅延や品質問題を回避しましょう。

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