製薬業界におけるオペレーティングシステムの老朽化がもたらす課題

by Dario Palese, Digital Governance Business Line Director @PQE Group

技術の進歩にもかかわらず、製薬業界では依然として旧式のオペレーティングシステムを搭載したPCが、さまざまな重要業務に使用されています。

技術の進歩にもかかわらず、製薬業界では依然として旧式のオペレーティングシステムを搭載したPCが、さまざまな重要業務に使用されています。これらのレガシーシステムは、多くの場合、産業用機器や生産ライン、そして旧世代のプラットフォーム専用に設計された特殊なソフトウェアの基盤となっています。こうしたシステムは長年にわたり安定性と継続性を提供してきましたが、一方で大きな課題も抱えています。

特に、Microsoftが2025年10月に予定しているWindows 10のサポート終了を受け、Windows 11やその他の代替プラットフォームへの移行が喫緊の課題となっています。

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サイバーセキュリティ

レガシーシステムは統合された環境を提供する一方で、旧式のオペレーティングシステムがサイバーセキュリティ上の大きなリスクとなります。更新が行われないため、新旧の脅威やサイバー攻撃に対して脆弱な状態に置かれるからです。ハッカーは、病院や産業用制御システムなど、交換が難しい重要環境で旧式システムが頻繁に使用されていることを知っており、これらのシステムを狙った攻撃を仕掛ける傾向があります。さらに、自動化された攻撃ツールは、パッチが適用されていないシステムを素早く特定し、標的にすることが可能です。

加えて、旧式OSを使用し続けることで、脆弱な旧世代のアプリケーションに依存せざるを得なくなるという問題もあります。これにより、システム全体のセキュリティリスクがさらに増大します。

また、内部の脆弱性以外にも、旧式のシステムは、最新のファームウェアやハードウェアとの互換性の問題により、外部防御の有効性を低下させます。多くのアンチウイルスソフトやファイアウォール、その他のセキュリティツールが旧式OSをサポートしなくなるため、システムは無防備な状態にさらされてしまいます。

 

コンプライアンスと事業継続性

更新されていないシステムは、さまざまな規制基準の非遵守につながる可能性があります。組織が適切なコンプライアンス対策が講じない場合、罰金、法的措置、制裁、さらには企業の評判低下といったリスクを招く恐れがあります。

特に、GDPR(一般データ保護規則)は、個人データを保護するために適切な技術的対策の実施や、適切な技術的措置の実施「設計段階およびデフォルトでのデータ保護」(Privacy by Design and Default)の原則を求めています。旧式のシステムを使用し続けることは、これらの基本原則に反する可能性があり、企業のリスクをさらに高める要因となります。

EU NIS2指令(ネットワークおよび情報セキュリティ)からも、より広範囲でのデータへの要求が出されている。組織は、サイバーセキュリティリスクを管理し、インシデントを防ぐための適切な措置を講じる必要があり、さらに強固な災害対策計画を通じて事業継続性を確保しなければなりません。

国際標準においても、ISO 27001 (ISMS: 情報セキュリティマネジメントシステム)は、脆弱性のタイムリーな識別と修正、安全なシステムおよびソフトウェアの使用、そして情報の完全性と可用性の保証を要求しています。このように、旧式のシステムはこれらの要求を満たすことができず、この標準に準拠することが困難になります。

製薬業界に焦点を当てると、HIPAA(米国における医療保険の相互運用性と説明責任に関する法令)も、上記の規制や標準と同様の要件を持っています。旧式のオペレーティングシステムは、データの完全性要件を著しく損なう可能性があり、この要件はすべての組織にとって重要であるだけでなく、特にこの業界においては必須となります。

データインテグリティには、データバックアップおよびリカバリメカニズムが強固であることが求められます。これは、データが障害や破損、損失などの際にリストアできるようにするためです。しかし、旧式のシステムは最新のバックアップ技術との互換性が欠けている場合があり、また定期的で自動化されたバックアップを提供できない可能性があります。

旧式のシステムは、監査証跡、多要素認証、役割ベースのアクセス制御、および安全なパスワード保存など、最新のセキュリティ機能を欠いており、不正アクセスに対して脆弱です。

製薬業界では、コンピュータ化されたシステムは、意図された通りに機能し、必要なパフォーマンスおよびセキュリティ基準を維持することを保証するために、厳格なバリデーションを経なければなりません。また、データインテグリティ、セキュリティ、アカウンタビリティを保証するための規制基準に準拠する必要があります。例えば、FDA 21 CFR Part 11(電子記録および署名に関する規定)やGxP規制などです。

システム設計、テスト、メンテナンスを含むバリデーションプロセスのすべての徹底した文書化が利用可能でなければならず、システムに加えられた変更を追跡する能力も求められます。

旧式のシステムは、しばしばバリデーションに必要なツールや機能を欠いており、これらのすべての要件を危険にさらす可能性があります。新しいセキュリティプロトコルをサポートしていない、または最新の検証ソフトウェアを実行できないため、セキュリティとシステムパフォーマンスが損なわれる恐れがあります。

 

更新のアプローチ

前述の内容から、旧式システムを更新することが望ましく、その必要性をほぼ理解できました。しかし、最新のベンダーサポートされたオペレーティングシステムへの移行には、構造化されたアプローチが求められます。特に重要なプロセスをサポートするシステムにおいては、故障や業務の中断のリスクを最小限に抑えることが不可欠です。以下では、Windows 10 から Windows 11 への移行に焦点を当てますが、このアプローチは他のオペレーティングシステムの更新にも適用可能です。

  • 評価と計画

Windows 10 から Windows 11 への移行は、ダウンタイム、データ損失、互換性の問題を最小限に抑えながらスムーズに移行を進めるために、慎重な計画と実行が必要です。

最初のステップは、現在の状態を評価することです。影響を受けるデバイスを特定し、Windows 11 の最小ハードウェア要件に対する現在のコンフィグレーションと適合性を評価する必要があります。この段階で、互換性のないすべてのハードウェアに対する置換戦略を定義する必要があります。

ハードウェアが特定され、検証された後、対象のデバイスで実行されているすべての重要なアプリケーションを特定し、それらが Windows 11 と互換性があるか確認しなければなりません。初期チェックは自動的に行うことができますが、特に重要なアプリケーションについては、広範囲なシステムテストを行うことをお勧めします。また、リスクに基づいた再バリデーションも検討すべきです。

評価が終わった後、計画フェーズが始まります。この計画には、介入の優先順位や、重要なデータのバックアップ、パイロットテスト、本格的なデプロイメント、移行後のサポートのマイルストーンを含める必要があります。

綿密な計画には、重大な問題が発生した場合のロールバック戦略も含まれており、必要に応じてユーザーが以前のオペレーティングシステムに戻せるようにします。これには、システムの復元ポイント、バックアップ、または簡単にロールバックできるイメージベースの回復ツールを含みます。

  • パイロットテスト

パイロットテストは、潜在的な問題を特定し、それが組織全体や重要な業務に与える影響を最小限に抑えるために非常に重要です。このフェーズは、企業全体を代表できるユーザー/アプリケーションのサンプルを特定することから始まります。
パイロットフェーズで特定された重要な問題には、すべて対処する必要があります。

  • 本格的なデプロイメント

次のフェーズでは、ユーザーデータ、プロファイル、機能を確実に移行するための標準化された移行プロセスを定義します。

アップグレードプロセスは、業務への影響を最小化するようにスケジュールされ、すべての関係者に通知されます。

  • 移行後サポート

このフェーズでは、システムのパフォーマンスを体系的に監視し、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク構成が正しく機能していることを確認し、特定された問題に対処します。 

また、コンピュータ化システムバリデーションの適切な変更管理が実施される必要があります。

 

結論

製薬業界における旧式オペレーティングシステムへの依存は、サイバーセキュリティリスク、規制への非準拠、および業務の脆弱性など、重大な課題を引き起こします。Microsoftが2025年にWindows 10のサポートを終了することを踏まえ、Windows 11のような最新のプラットフォームへのタイムリーな移行は、データインテグリティ、システムセキュリティ、および規制遵守を確保するために不可欠です。

構造化された移行アプローチは、重要な業務のニーズに対応しながら、業務の中断を最小限に抑えることができます。

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