欧州の医薬品の供給問題対応 - EMAのガイダンスから-

by 峠 茂樹 ー CSV/CSA&データインテグリティマネジャー @ PQE Japan ㈱

医薬品の供給問題 

日本では一部の医薬品において供給不足が定常的に存在し、医薬品製造企業、卸売企業、医療現場が対応を迫られている。特にジェネリック医薬品にその傾向がみられる。原因として、昨今の世間を騒がせている医薬品製造における品質問題によって、製品が出荷中止になったり、回収したりしていることが影響していると考えられている。 

このため、この問題は国内に限定されていると思われがちであるが、実は米国や欧州でも同様の傾向がある。2024年5月のISPEの年会でFDA長官から米国の医薬品供給問題におけるFDAの取組みに対して説明があったように、米国でも大きな問題として取り扱われている。 

原因についてはいろいろな要因が考えられるが、特許が切れてだれでも自由に製造できるようになったジェネリック医薬品という業界の新たな構造変化がその根底にあると考えられている。すなわち、ジェネリック医薬品は医薬品の値段を大きく下げて患者に大きなメリットをもたらしたが、その結果、ジェネリック企業は薄利多売という宿命を背負うことになった。極力在庫を持たず、確実に販売できる量しか作らない体質ができてしまったのである。このため、採算が合わず製造を中止する企業や品質問題で出荷できなくなる企業が1社でも出れば、品薄になってしまう。特に日本の薬価制度の中では薬価は基本的に上がることはない。円安が進み、原料が値上がりしても、人件費が上昇しても価格転嫁できないというジレンマに陥っている。 

しかしながら、必要な医薬品が供給できないことは重大な社会問題を引き起こす可能性があるので、日本をはじめ欧米でも政治的優先課題の一つとして取り上げられている。 

Supply Issues_JP

EMAの対応 

欧州ではどのようにこの医薬品の供給問題をとらえているのか考えてみよう。EMAが考える供給問題は大きく分けて以下の4つである。 

 

  • 原材料の不足

原薬等の原材料の多くは海外からの輸入に頼っている。特に中国、インドからの輸入が多い。これらの国からの輸入が滞ると欧州全体の供給不足が生じる。 

  • 生産設備の問題 

医薬品の製造は高度な技術と厳格な規制順守により品質を担保している。このことは、品質問題が供給に影響を与えるリスクが大きい。 

  • 物流の課題 

輸送中の温度管理が厳格に求められる医薬品については、温度管理がサプライチェーン上の問題となる可能性がある。 

  • 需要の急増 

パンデミックや新たな疾病の流行により特定の医薬品の需要が急増することがある。この需要の急増に供給が追い付かない場合がある。 


これらの原因について、日本でも同じことが言える。すなわち、医薬品の供給問題は同じような原因で生じていることが考えられる。これらの原因の根底には先に述べてジェネリック医薬品の問題がある。原材料の不足問題は原薬の購入先が結果的に価格の安い中国やインドという特定の国に集中してしまい、レジリエンス(対応力)が低下することなった。 

これらの原因に対して欧州では以下のような対応策を検討している。 

  • 原材料調達先の多様化と域内生産の促進 

  • 規制の緩和と迅速化:承認プロセスの迅速化のため規制緩和 

  • 在庫管理の改善:在庫管理を改善するためのシステム導入 

  • サプライチェーンの強化: 

「サプライチェーンの強化」に関しては、特にジェネリック医薬品については先にも述べた様に薄利多売からくる余力のない供給実態があり、一部の製造業者の出荷停止が全体の供給不安を引き起こすことがある。日本も含め欧米の規制当局は出荷停止あるいは出荷量の減少については前もって当局に連絡するように義務付けている。 

欧州では、製造元やMarketing Authorisation Holder (MAH:製造販売業者)は、一時的であれ、恒久的であれ、出荷を停止する場合は当該加盟国の規制当局に事前(2か月以上前)に連絡するように定められている。 

また、EMAはMAHとその販売業者に対して医薬品の供給を監視し、不足を報告する責任があると規定した。この結果MAHは医薬品の需給状況を継続的に監視し、製造業者や卸売業者など、サプライチェーン上のすべての事業者とコミュニケーションを取らなければならない(must)としている。 

すなわち、原薬の輸入先の国が隣国と戦争をはじめ、日本が禁輸措置を取り、原薬が輸入できなくなった場合でも、医薬品の供給を絶やさないように事前に輸入先を変えるなり、余分に購入しておくなり、何らかの対応を取らなければならないということを意味する。 


Shortage Prevention Plan (SPP)とShortage Mitigation Plan (SMP)の作成 

EMAは2023年2月に医薬品の欠品問題に対して業界へのGood Practicesを発出した。この中ではMAHや製造業者、卸売業者に対してそれぞれの立場に応じたShortage Prevention Plan (SPP)とShortage Management Plan (SMP)を作成すべきである(should)と述べている。 

SPPは欠品を予防するための計画書であり、例えば製造業者のSPPは製造能力、原材料の調達、市場動向など医薬品の供給に焦点を当てたものとなる。卸売業者のSPPは医薬品の受領、保管、配送に至るまでの脆弱性を特定し緩和するものとなる。それではMAHはどのようなSPPとなるのか。MAHは域内だけでなく世界における医薬品の供給を全体的に監視する必要があり、このためSPPは有効成分の調達から卸売業者までの側面を包含する必要がある。 

一方、SMPについては欠品が発生した後の対処方法について記載する。この場合、MAHは原材料の製造元から患者までの管理計画を策定する必要がある。例えば、CMOに対しては、品質問題から原薬の増産依頼など、一方で医療機関に対して医薬品の公平な配分への配慮やその医薬品がない場合の対応法を伝える必要がある。公平な医薬品の配分とは買占めや購買力のある一部の医療機関に優先的に配分されることを防ぐという意味である。 


PQE Groupでの対応 

PQE Groupでは上記に記載したEUにおけるShortage Prevention Plan (SPP)とShortage Management Plan (SMP)の作成サポートが可能です。その他、EUの規制対応について充実したスタッフがそろっています。 

どうぞお気軽にお問い合わせください。 

 

<参考資料> 

  • EMA, Guidance on detection and notification of shortages of medicinal products for Marketing Authorisation Holders (MAHs) in the Union (EEA), 01 July 2019 
  • EMA, Good practices for industry for the prevention of human medicinal product shortages, 28 February 2023 

 

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PQE Groupは、グローバルネットワークを活かして各国の規制対応が可能なサポートサービスを提供しています。世界中の専門家が連携し、各地域の規制や基準に適合したソリューションを提供することで、クライアントの品質向上をサポートします

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