バイオ医薬品・医療機器分野の AI進化における品質プロフェッショナルの役割

by Bob Castellucci, Principal Consultant and Networking Executive @PQE Group US

現在、世界において、人工知能(AI)とその急速かつ広範な発展は、非常に大きな関心を集めています。AI技術が進化し続ける中で、世界中の個人や大小さまざまな企業が、自身の革新や成長を支援するためにAIを活用しています。バイオ医薬品や医療機器等の産業界では、製品の研究・開発・製造にAIを用いています。AIは、現代において最も広く浸透している要素の一つであり、近年、最も急速に拡大しているテクノロジーの一つとなっています。進化し続けるすべての新しいテクノロジーと同様に、AIには現在および将来への大きな期待が寄せられています。しかし、私たちはその能力を完全に理解するために必要なすべての技術的知識をまだ持ち合わせていません。私たち業界は、果たしてAIのもたらす約束を本当に実現できる段階に近づいているのでしょうか。現在の期待は大きいものの、その実現は明日にでも可能なのでしょうか、それとも何年も先の話なのでしょうか。

本記事では、AIの可能性と品質に関する応用の可能性、現時点での最先端の状況、成功に向けての重要な要因に関する洞察、そして、品質の専門家にとっての意味についても考察します。

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恐れを乗り越えるには、まず知ることから

病気や疾患によって脅かされている人々の命を守る、あるいは救うという業界で働いている私たちは皆、物事を正しく行う責任があることを理解しています。高度に規制されたバイオ医薬品・バイオテクノロジー業界においては、品質・純度・安全性は製品の開発および製造において極めて重要であり、品質管理の機能がなければ、規制要件への適合は危ぶまれます。

私たちは、理論上は非常に有望でありながらも、初期段階では理解が難しく、不可解に感じられる新技術が多数登場するのを目の当たりにしてきました。未知のものには、不安や恐れが伴います。そうした技術を実際の業務に応用する前に、私たちはまず、その技術そのものがどのように機能するのか、どのようなリスクがあるのか、そのリスクをどう軽減できるのか、そして最終的には、その応用が製品の品質・純度・安全性・有効性を一切損なわない理由について十分な情報を得る必要がありました。これは、AIについても同様です。

つまり、品質の専門家は、その技術について機能的な理解を持ち、実証する必要があります。そして企業は、AIが品質保証の職務にどのような影響を及ぼすかを見据えるべきです。AIが有用なツールとして活用される中で、品質の専門家はAIを活用し、業務目標を達成し、プロセスの迅速化とプロジェクトの品質向上に役立てていくことになるでしょう。したがって、これらの専門家は、自身のスキルを正直に評価し、AIに対応できるだけの十分な知識を持ち、AIに適合しているかどうかを検討する必要があります。

これは、製品の品質と安全性を確実に適合させ、品質管理システムへ統合される方法を理解するために必要なことです。また、品質の専門家はこの知識をもって、業界内の他部門と連携し、製品ライフサイクル全体において、妥当性があり信頼でき、安全なAIの活用を支援することができます。
さらに、品質の専門家は、こうした知識を規制当局の担当者と共有するという非常に価値ある役割も担えます。規制当局は国民の安全を守る責務を担っており、品質の専門家は、規制当局がAIの応用を受け入れるために必要な知見とデータを提供することができるのです。

 

業界における技術的能力と業務の統合

AIには素晴らしい可能性があることは明らかです。誰もがAIの存在を認識していますが、規制された環境に適切に統合できるほど深く理解している人はどれほどいるでしょうか。
私自身が調べてみたところ、AIを活用して業界のプロセスを改善・加速させようという大きな期待がある一方で、実際にAIをアプリケーションとして統合する取り組みは、まだごく初期段階にあることがわかりました。
たとえば、多くの人がAIを活用して、治験計画書や製品開発計画書、調査報告書、バリデーション計画書などの標準文書を迅速に作成できる手段として想定しています。この目標は非常に価値があり、積極的に追求されるべきものです。
このような状況を踏まえると、企業は今すぐに、成功の可能性が最も高いユースケースを徹底的に評価し始めるのが賢明でしょう。これには、現在のAI技術が持つ限界に伴うリスク、業務への適用可能性、導入に要する時間・コスト・トレーニングなどが含まれます。これらの準備により、技術が進歩するにつれて、迅速かつ効果的な導入が可能になるのです。

 

すべてはデータの信頼性にかかっている

考えてみてください——AIアプリケーションの基本的な前提のひとつは、AIシステムが学習するために有効な知識ソースが存在しなければならない、ということです。データ収集に関してよく知られている言葉があります——“ゴミを入れれば、ゴミが出てくる(Garbage in, garbage out)”。明らかなこととして、AIが出力を出すには、最初に何らかの入力、つまりプロンプトが必要です。
人々がAIの進化に適応しつつある今、近い将来、AIプラットフォームが標準文書、手順書、調査報告書、プロジェクト計画書、治験計画書、バリデーションプログラムなどを作成するために使われる可能性があると予測するのは、まったく妥当なことです。その用途は数えきれないほどあります。AIは、非常に優れた出発点を提供することはできるかもしれませんが、こうしたあらゆる応用において、AIだけでは開始できない固有のデータが必要になるのです。

この技術の急速な進歩によって、機械学習(ML)に供給されるソースデータの有効性がいかに重要であるかが、これまで以上に明らかになっています。というのも、もしAIに与えられるデータが不完全であったり、不正確だったり、信頼性に欠けていれば、その出力もまた同様に、不完全で、不正確で、信頼できないものになるからです。
もし私が品質部門のリーダーで、AIのような先進技術を活用したいと考えている立場であれば、まず自社の現状を考えるでしょう——データインテグリティはどうか、現在存在しているソースデータの品質は十分か、そしてそのデータの品質を改善するために必要な取り組みは何か。今後AIを活用する予定があるのか、それとも今の段階でデータ管理の方法を見直すべきなのか。そうすれば、今この時点から、自分たちが持っているデータと、これから構築していく情報に自信を持てるようになります。そして、これから先、AI技術が本格的に活用できるようになったとき、自分が持っているものや構築してきたものが、良い成果を確実に得るための信頼できる基盤であると確信できるのです。

 

品質の専門家に求められる新たなスキル

先進技術を活用して最大の効果を引き出すシステムは、非常に最先端であるため、多くの品質の専門家は、AIシステムの操作や、そのコンプライアンスを評価するために必要な技術的スキルをまだ持っていない可能性があります。
現在の自社の組織的・技術的スキルセットがどこにあるのか、そして将来的にはどこへ向かうべきなのかを考え始め、さらに、社員の能力開発に着手しましょう。そうすることで、いざという時に、組織と人材がしっかり準備できている状態をつくることができます。この準備を今すぐ始めることが重要です。というのも、AIが日常的な業務ツールとして、さまざまな分野で使われるようになる日は、もう遠くないからです。従業員がスキルと知識の準備を行い、そして、組織のワークフローの一部としてAIを使用する方法を理解できるようにするために、今できることを始めましょう。
まず、会社がどのように日常業務、特に品質業務の中でAIを活用していくのかを明確にしましょう。

•    品質の専門家の職務内容はどのように変わるのでしょうか?
•    品質部門の機能、そして品質の専門家の役割はどう変化するのでしょうか?
こうした変化が起こることを認識し、従業員が、彼らの能力開発の一環としてこの計画への参加を促すことを始めます。

新しい世界への備えは今から

AIがバイオ医薬品・バイオテクノロジーの世界に導入されることは、非常に大きな変化をもたらします。この技術を成功裏に活用するためには、よく構築されたチェンジマネジメント(変革管理)プログラムが不可欠です。経営層は、人の要素が今後どのように影響を受けるかを理解しておく必要があります。
従業員は当然ながら、これらの変化が起きるときに自分たちにどのような影響があるのか、ポジションは安全なのかといった疑問を抱くことでしょう。従業員とAIに関するオープンな対話を持ち、AIが組織に与える可能性のある影響について、率直に話し合ってください。
スタッフが今後起こりうる変化を認識し、理解し、彼らの仕事に起きる変化に対して恐れや不安を抱かないようにすることが大切です。たとえAIプログラムが稼働したとしても、それを導入し、管理し、有効性をチェックし、そのシステムが実際に機能しているかどうかを示すのは人間である、ということを理解してもらいましょう。
もちろん、すべてはバリデーションプロセスから始まり、このプロセスがそのシステムが本来の意図した目的どおりに機能しているかを示すことになります。

まとめると、AIアプリケーションは、世間が想像するような完全な形ではまだ実現していません。AIの能力は、現時点ではまだ完全に稼働しているわけではないのです。しかし、利用可能となるその「日」は、遠い将来ではなく、むしろ近い将来にやってくると見られています。

これらの能力が今後ますます急速に進化し続ける中で、組織がこのAIの長期的な拡大に対応するための準備を進め、そして、品質の専門家がAIとともに進化していくとともに、「ニューノーマル」に順応していくことが極めて重要です。

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